今の住まいに引っ越して、ちょっと落ち着いたある日、花を一輪買ってワインの空き瓶に生けた。住み始めてまだ馴染めない部屋になんという花かもう忘れたがやたら赤い花がそこだけ生き生きとしていたような気がする。やがて馴染むもなにも、新たな通勤経路を行き来し、引っ越しのために取った休暇で溜った仕事に忙殺され、ふと気付くと花は枯れていた。 そこで捨てればよいものを目立たない部屋の隅に移して気がつけば五年近くを過ぎた。かつての花は下を向き、葉と共に干からびてしまった。ワインボトルの水はまだ半分弱残りそこに浸る茎の部分は藻のようなものにに包まれている。 いくらなんでももう土に帰してあげようと思った。なんで突然今思い立ったかわからないが、そうなると何か申し訳なくなって写真を撮り、敷地の植え込みの影に、そっと横たえてその周囲と最後にパリパリに干涸びた花と葉にワインボトルの水を振り掛けた。時刻は夕暮れの終わり。辺りは暗く人気もない。秘密の儀式をしているようだった。
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